
名前 花椒(別名:中国山椒)
基原 ミカン科サンショウ属カホクザン
ショウ(華北山椒 学名:
Zanthoxylum bungeanum
Maxim.)の成熟した果皮(果
殻)。 日本原産のサンショウ(山
椒 学名:Zanthoxylum piperitum)
は同属異種に当たる。
性味 辛/熱 小毒
帰経 脾・胃・腎
効能 散寒止痛・燥湿、解毒回虫
中国と日本をつなぐ「山椒」の物語
花椒(ホアジャオ)は、中国山椒とも呼ばれるミカン科サンショウ属の果実の皮です。四川料理の麻婆豆腐に欠かせない独特の香りとしびれ。その主役となるのが、この香辛料なのです。
日本では「花椒(かしょう)」と読みますが、中国語では「ホアジャオ」。古典では「秦椒」「蜀椒」などの名称で記載されています。 一方、私たちに馴染み深い日本の「山椒(さんしょう)」は、うなぎや佃煮、七味唐辛子などで親しまれています。
どちらもミカン科サンショウ属の仲間ですが、実は原産地も特徴も少し異なります。
花椒と山椒の違い
花椒は主に中国原産のカホクザンショウの成熟した赤い果皮(果殻)を用います。
花椒は『神農本草経』において、中品に「秦椒」、下品に「蜀椒」として収載されています。本草綱目にも「秦椒」が載っていて、産地や品質の違いによって区別されたサンショウ属植物であったと一般に考えられています。 成熟した果実の中の種子は、噛むと砂のようにジャリジャリとしていて、食感がよくないため取り除きますが、椒目(しょうもく)という利水滲湿薬になります。
※近年は「藤椒(タンジャオ)」と呼ばれる香り高いサンショウ属植物も人気です。花椒より柑橘様の香りが強く、痺れが穏やかなので、痺れが苦手な方にお勧めです。主に藤椒油として利用されます。
一方、日本の山椒はサンショウという植物が基原植物です。
興味深いのは、日本の山椒は実だけでなく、季節ごとにさまざまな部位を楽しめることです。
- 春の若葉:木の芽(葉山椒)
- 春から初夏の蕾:花山椒
- 初夏の青い実:実山椒
- 秋の熟した果皮:粉山椒、生薬(日本薬局方)
木の芽は爽やかな香りが特徴で辛味はほとんどありません。花山椒になると、ほのかな辛味と上品な香りが現れます。そして成熟した果皮になると、山椒特有の刺激と芳香が強くなります。これを花椒と同じく、種子を取り除いて生薬として使用します。
なお、「花山椒」と「花椒」は名前が似ていますが全く別物です。花山椒は日本の山椒の蕾、花椒は中国原産のサンショウ属植物の果皮を指します。


| 項目 | 花椒 | 山椒 |
|---|---|---|
| 主な産地 | 中国 | 日本 |
| 香り | 濃厚、スパイシー、華やか | 柑橘系、爽やか |
| しびれ | 強い | 比較的穏やか |
| 主な料理 | 麻婆豆腐、担々麺など | うなぎ、佃煮など |
古代日本に登場する「蔓椒(ほそき)」
日本でも山椒が古くから重要な植物として利用されてきました。
「椒(はじかみ)」の字には芳しい・辛味・小さな実の意があり、山の香り高い辛味の実であることから「山椒」の名が付いたと考えられています。『大宝律令』や『延喜式』には、秦椒や蜀椒のほかに、「蔓椒」の名称もあり、これはイヌザンショウやサンショウ類を指したと考えられ、薬用だけでなく油の原料としても利用されていました。
現代ではあまり使われない名称ですが、日本人が千年以上前から山椒を活用してきた歴史を感じさせます。
生薬としての花椒と山椒
中医学で花椒は散寒薬に分類され、温中散寒を主とします。
性味は辛/熱、小毒(適切に使用し、過量投与には注意を要する )
帰経は脾・胃・腎
とされ、脾胃を温め、寒邪を散じ、腹痛や冷えによる下痢などに用いられてきました。
代表的な温裏剤である「大建中湯」にも用いられています。お腹を温め、気血の巡りを促し、腹部の冷えや痛みを改善する目的で使用されます。
面白いことに、現在、日本薬局方の「サンショウ」は日本原産のサンショウ(Zanthoxylum piperitum)を基原植物としています。上に挙げた大建中湯では、日本ではサンショウが用いられ、中国では近縁種である蜀椒(花椒、Zanthoxylum bungeanum)が用いられます。
両者はいずれもミカン科サンショウ属に属し、辛味成分や芳香性の精油成分を含むことから、古くより胃腸を温める目的で利用されてきました。
中国では蜀椒(花椒)が薬用として用いられてきましたが、江戸時代の『本草綱目啓蒙』には、中国で上品とされた「蜀椒」と、日本で上品とされた「朝倉山椒」の双方が記されており、当時すでに両者が区別して認識されていたことがうかがえます。
育てて観察・味わってみよう!
日本の山椒は比較的栽培しやすく、春の木の芽から秋の果実まで一年を通して楽しめます。花椒の苗も最近ではインターネットの通販で手にはいるようになりました。
何を隠そう、私(筆者)は大の花椒好き。好きすぎてベランダで3鉢ほど育てています。トゲが多く、初夏はアゲハチョウの幼虫(!)との闘いの日々ですが、採りたての花椒の香りは格別です。また、春先の柔らかい若芽も、料理のアクセントに使えます。
今回はまだ青い花椒を使って、水煮魚(白身魚の麻辣煮込み風)を作りました。淡泊な白身魚と野菜を煮て、最後に熱した青花椒油をジュッ!とかけると、清々しい香りがたって、湿気の多い季節でも食欲が出ます。

葉、花、青い実、熟した果皮。
育てることで初めて見えてくる季節ごとの変化は、学びながら味わう大きな醍醐味です。
次に麻婆豆腐を食べるときは、「この痺れは花椒(中国山椒)」、木の芽和えを味わうときは「これは日本の山椒の香り」と思い出し、料理として楽しみながら、その働きにもぜひ注目してみてください。
同じ「山椒」の文字の中に、中国と日本、それぞれの食文化と生薬の歴史が息づいているのです。
参考文献:
吉林科学技術出版社 図解 神農本草経
天津科学技術出版社 本草綱目 全解
東洋学術出版社 中医臨床のための中薬学
国立歴史民族博物館 デジタル延喜式
国書データベース 本草綱目啓蒙

セキネ
2014年9月北京中医薬大学日本校(現 日本中医学院)
中医薬膳専科卒業。
国際中医薬膳師/中医薬膳茶師/薬膳講師/製菓衛生師
食と中医学の両面から、身近に楽しめる薬膳を提案している。
三度の飯と食べ物にまつわる知識が大好物。未知の料理やフルーツを追い求め、世界中を旅する。
日々の食養生の工夫、季節の薬膳、育てて食べる中薬、野草の活用、
生薬の身近な使い方など、薬膳にまつわるさまざまなテーマを歓迎します。
日本中医学院 卒業生の皆さまの「楽しい」「伝えたい」気持ちをお待ちしています。
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